book04-inu.jpg『犬の巻』の発刊によせて

 何事もマンネリ化は避けられない.江戸時代には,『売家と唐様で書く三代目』という川柳が作られ, 現在に伝わっている.創業者が苦労して築き上げた家業を二代目が引継ぎ,苦労を知らぬ三代目が 本業を放ったらかしにして習い事に現を抜かし,とうとう家が傾いて売りに出す羽目になったが, 似つかわしくない立派な筆使いで客寄せの文字が書いてあるという皮肉である.私も液体クロマトグラフィー 研究懇談会の運営を任された三代目に当たるため,この川柳を以って戒めとしている. 「液クロ虎の巻」シリーズは1年ごとに新作を刊行し,今日を迎えた.幸いにして,このシリーズは 多くの読者に支持されているが,この春に第4集の出版を企画した際,前の2冊の場合と同様,肝心の ネタがあるかどうか訝る意見もあった.ところが,運営委員にQ(質問)部分の原稿案を募ったところ, 168問という過去最高の質問数が寄せられた.運営委員恐るべし.衰えを知らぬ運営委員の出題意欲と 能力に敬意を表するばかりである.早速,全ての問題について回答執筆者を決定し,じっくりと回答 原稿の推敲をお願いした.
 今年の原稿査読会は(株)日立ハイテクノロジーズの横浜経営研修所を お借りして行っ た.お盆明けの8月16日午後1時に集まって,翌日の午後1時に解散するスケジュール であったが,20名を超える運営委員の参加を得,4グループに分かれて精力的に査読作 業を行った. 例によって先ずグループ内で原稿の疑問点を解決し,未解決部分を二日目 の午前中に全体で討論して 解決する方式である.その場で修正できない原稿は持ち帰っ て貰い,速やかに再提出をお願いした.
 このような過程を経て出来あがった本書の書名は前3作と同じく,周の太公望の撰と称する兵法書 『六韜(リクトウ)』に因んだ.六韜を構成する文韜・武韜・竜韜・虎韜・豹韜・犬韜の6巻のうち, 未使用の動物名である犬を採用した.犬の歴史は1万5千年 前に遡るが,犬は常に人間と生活を共 にした身近な動物である.犬からは『桃太郎』,『南 総里見八犬伝』などの物語や「忠犬ハチ公」 などが連想される.「イヌの巻」を「戌の巻」として本シリーズの書名を干支に繋げるる案,あるいは 「狗の巻」とする案もあったが,漢字が馴染み易く六韜に忠実な「犬の巻」とした.また,表紙は緑 の原野に佇む北海道 犬をイラスト化したものとした.これは,今年は台風の当たり年で福井・新潟豪雨 をも たらしたばかりか,浅間山の噴火,新潟県中越地震などの天変地異の多発が特記されるが,それと 共に全国各地で連日のように報道されたクマ騒動を記憶しておきたかったからである.山に・の実や どんぐりが不足し,クマが里に出没し,柿の木に登って柿を頬 張る写真は国民の殆が初めて目にする ものであったに違いない.北海道犬は今では天然 記念物であるが,昔はアイヌ犬としてアイヌの人々が ヒグマの狩りに日常的に使用して いた.我が国の北海道犬は甲斐犬,紀州犬などと共に,舌の裏側に ある紫色の斑点を特 徴とする縄文犬に分類される.縄文犬はインドネシア,パプアニューギニア, フィリピンを経て日本列島に至る島々に分布するという.因みに,政府が地域限定で規制を緩和 する「構造改革特区」に提案を募ったところ,人里に現れるクマを追い払う目的で犬の 放し飼い を認める「忠犬特区」を長野県などが提案したそうである.
 今年はプロ野球界にも近鉄バファローズ の消滅,ダイエーホークスと西鉄ライオンズ の身売り騒動,ライブドアと楽天による新球団申請と, これまでにない大異変が続発した.本研究懇談会が編集する「液クロ虎の巻」シリーズの書名中の動物名が, セントラ ルリーグの2年後の優勝チームと符合する幸運が2回続けて起こった. 1回目は「虎の巻」(第1集)刊行2年後の阪神タイガーズの優勝(2003年),2 回目は「龍の巻」(第2集) 刊行2年後の中日ドラゴンズの優勝(2004年)である.第3集「彪の巻」,第4集「犬の巻」はプロ野球に 該当チームが見当たらないので,予想ゲームも中断であるが,他のスポーツではどうであろうか? 密かな楽しみを失わないためには,この辺にも配慮して書名 を選ぶべき事に,いま気が付いた次第である. 「虎」,「龍」,「彪」,「犬」,果たして第5集は?
 さて,肝心なのは本書の中味である. 前3作と同じテーマを採り上げ,見方を変えて Q&A 化した嫌いがある問題も皆無ではないが, 大部分はより深い専門的なテーマに関するものである.本書も含め,番号を付したQ&A の数は何れも, 100未満であるが,番 号のない短めのQ&A を加えると各作とも優に100問を超える.従って, 本シリーズには既に四百数十問が収載されており,将来それらをデータベース化して活用を図りたい. また,資料編には,これまでで最多の関係企業20社の最新製品紹介を掲載した.さらに,本書の巻末には 本シリーズの第1集である「液クロ虎の巻」,第2集である「液クロ龍の 巻」,第3集である「液クロ彪の巻」 のそれぞれの目次を掲載して読者の便を図った.本 文,資料編とも誤りがないように細心の注意を払ったが, 不都合な点があればご連絡戴きたい.本書「犬の巻」が前3作に伍し,日本中を縦横に駆け巡ることを 願って止まない.
 最後に,筑波出版会の花山亘社長,悠朋舎(製作担当)の飯田努社長,ならびに 関係各位の労苦に感謝の意を表する.

平成16年11月
液体クロマトグラフィー研究懇談会委員長
中村 洋

執筆者一覧

赤星 竹男
池ヶ谷 智博
石倉 正之
井上 剛史
大河原 正光
大竹  明
大津 善明
春日 喜雄
岡橋 美貴子
沓名  裕
黒木 祥文
工藤 忍
熊谷 浩樹

小池 茂行
紺世 智徳
澤田  豊
坂本 美穂
佐々木 久郎
住吉 孝一
高橋  豊
瀧内 邦雄
滝埜 昌彦
冨澤  洋
長江 徳和
中村  洋(監修)
西岡 亮太

二村 典行
菱沼 義寛
古野 正浩
坊之下 雅夫
星野 忠夫
本田 俊哉
前川 保彦
三上 博久
宮野 博
向井 敏和
村上 重美
吉田 達成
以上
(五十音順)

液クロ犬の巻 Question項目

1章HPLC の基礎と分離

  • 最近よく聞くHILIC とは?
  • シリカゲルカラムに水を含む移動相を用いることは可能?
  • ペプチドを分離・精製するよい方法とは?
  • 親水性相互作用クロマトグラフィーの分離機構は?
  • 親水性相互作用クロマトグラフィーと逆相クロマトグラフィーとの選択性の違いは?
  • ペプチドを分離するメリットは?
  • 逆相充填剤の細孔に移動相が入ったり,出たりするのは?
  • 分離中,溶出時間の再現性を低下させないためには?
  • 極性基内包型逆相固定相の特徴と利用法は?
  • 塩基性化合物でないのにテーリングするのは?
  • 現在のカラムでアミンの添加は必要?
  • 逆相カラムでC1~C4程度のカラムが使われないのは?
  • 複合分離とは?
  • ルーチン分析でHPLC システムの改造は必要?
  • どの程度の大きさの粒子径の充填剤が市販?
  • カラム洗浄によって劣化カラムを回復させることは可能?
  • カラムに重金属が蓄積する原因は?
  • カーボンを使った固相抽出剤やHPLC カラムのカーボンは同じもの?
  • 充填剤の細孔径,細孔容積,比表面積は保持や理論段数とどのような関係?
  • ポリマー型モノリスカラムのキャパシティーが高い理由は?
  • 流速に対する理論段数の変化が少ない理由は?
  • 配位子交換クロマトグラフィーの原理と適用例は?
  • 異性体の分離に適したカラムとは?
  • pH グラジエントとはどんな方法?
  • カラム温度が高い方が保持時間は小さい,逆の現象は?
  • 構造による分離しやすい化合物,分離しにくい化合物は存在?
  • 光学異性体を分離するときカラムや移動相の選択法は?
  • ODS カラムより,キラル固定相を用いた方が分離がよいのは?
  • 炭素含有量の少ないカラムの利点は?
  • カラム圧がメーカーやグレードで違うのは?
  • 分析カラム,分取カラムでカートリッジタイプの利点と欠点は?
  • デッドボリュームとはどんな意味?
  • 低pH,高温で使用できる逆相カラムとは?
  • 低pH でもエンドキャッピングは必要?
  • 高pH でルーティン分析できるカラムは?
  • ODS カラムで塩基性化合物の分析条件は?

2章検出・解析

  • FTIR をSFC,SFE やHPLC の検出器として利用するには?
  • 蛍光強度を低下させてしまう溶離液条件や成分は?
  • 古いUV/VIS 検出器の波長正確さの確認は?
  • レーザー蛍光検出法の利点と弱点は?
  • データ取込み・ピーク検出に関しての注意事項は?
  • LC/NMR はどのようにしたらできる?
  • AUFS 設定とインテグレーターのAU あるいはmV 表示の関係は?
  • LC/ICP の利点と欠点は?
  • 光化学反応検出法の原理は?
  • 化学発光検出法の原理は?
  • 電気伝導度検出器の測定原理は?
  • 電気伝導度検出器でどのようなものを測定できる?
  • HPLC に用いられる検出器の種類と注意点は?
  • 検出器をミクロ化する効果は?
  • 液体クロマトグラフィーでのオンカラム検出法は?
  • 知っていると便利なインターネットのアドレスは?
  • FDA21CFR Part11の内容は?
  • 算術的に不分離ピークを分離できる?
  • データ処理におけるペースラインの引き方は?
  • HPLC のバリデーション計画の手順は?
  • 超臨界流体クロマトグラフィーを分取クロマトグラフィーとして利用する利点は?
  • 精製度を知る方法は?
  • リサイクル分取の方法や注意点は?
  • 擬似移動床法とは?
  • 分析用HPLC で分取するさいの注意点や限界は?
  • CE とHPLC の利点と欠点は?
  • イオン排除クロマトグラフィーの原理は?
  • マイクロセパレーション,ナノフローとは?
  • 網羅的分析とはどのような分析?
  • 二次元クロマトグラフィーのハード,ソフトは?
  • 分析カラムから分取カラムに移行するときの分析条件は?
  • 絶対検量線法と内標準法の使い分けと利点は?
  • 分配クロマトグラフィーで液相と呼ぶ由来は?

3章試料の前処理

  • 除タンパク前処理法の条件は?
  • 血漿中で分解する薬物を安定化させる方法は?
  • 逆相HPLC フラクションの濃縮時に突沸などが発生する解決方法は?
  • オンライン固相抽出法で使用される前処理カラムは?
  • 固相抽出の自動化装置やロボットを使用するときの留意点は?
  • 生体試料分析でカラム寿命をのばすには?
  • 浸透抑制型充填剤カラムと内面逆相型充填剤カラムは同じもの?
  • プレカラム誘導体化法でアミノ酸の定量分析を行うときの問題は?
  • 糖類の検出法は?
  • 有機酸の検出法は?
  • 安定剤が含まれている溶媒にはどんなものがある?
  • LC/MS にはLC/MS 用の溶媒の使用が望ましいのは?
  • 移動相の最適流量とは?
  • 酸性,塩基性物質両用のイオン対試薬は?
  • 古い試薬が使えるかどうかの判断は?
  • カラム評価にはどのような試薬が使われている?
  • 移動相にTHF を使うときの注意点は?
  • バッファーの選択での注意点は?
  • 装置間で保持時間が変わらないようにするには?
  • 溶離液を再現性よく調製するコツは?
  • カラム内のシリカゲルが溶けたり,チャネリング現象がみられるのは?
  • リン酸緩衝液を簡便に調製する方法は?
  • グラジエント溶出のためのミキサーの種類と特徴は?
  • HPLC に試料を注入するさい,移動相で希釈するのが望ましいのは?
  • アルカリにのみ可溶な物質のHPLC 分離を行う場合の注意点は?
  • ノック式ピペットに使用するチップで,親水性の材質のものは?
  • オンライン固相抽出法を使用する注意点は?
  • HPLC 実験からでた廃液の処理方法は?
  • 酢酸アンモニウム粉末の正しい保管方法は?
  • 移動相用有機溶媒の入っていたガロン瓶の処理は?

4章LC/MS

  • LC/MS の日常的なメンテナンスの方法は?
  • APCI,ESI 以外のインターフェイスは?
  • 分子量より大きな質量数のイオンが観測されたのは?
  • 新品のLC をMS に接続するときの注意点は?
  • LC/MS で測定したら,界面活性剤が検出されたのは?
  • UV で見えるピークがMS で見えないのは?
  • TIC でベースラインの落ち込みとしてピークが観測されるのは?
  • LC/MS/MS スペクトルのライブラリーデータベースは?
  • LC/MS の溶離液を検討するときの注意点は?
  • イオン化条件の最適化の方法は?
  • 異なるメーカーの装置でパラメーターを組む場合の留意点は?
  • LC/MS 装置の精度管理は?
  • LC/MS で測定するときのパラメータの設定は?
  • 緩衝液の選択の目安は?
  • LC/MS で未知試料の分子量を推定するには?
  • ピーク強度に再現性が得られない原因と対策は?
  • LC/TOF-MS で定量分析は可能?
  • LC/MS でM+ClやM+Naなどが見えた.ClやNaの由来は?
  • TOF/MS のダイナミックレンジは狭いのは?

虎の巻シリーズ

液クロ虎の巻

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液クロ龍の巻

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液クロ彪の巻

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液クロ犬の巻

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液クロ武の巻

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液クロ文の巻

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コツ・How toシリーズ

液クロを上手につかうコツ

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ちょっと詳しい液クロのコツ(前処理編)

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ちょっと詳しい液クロのコツ(分離編)

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ちょっと詳しい液クロのコツ(検出編)

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液クロ実験 How to マニュアル

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動物も扱える液クロ実験 How to マニュアル

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分析士 解説書

第1回LC分析士初段試験 解説書

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