(公社)日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会(LC懇)は、2018年度より「液体クロマトグラフィー科学遺産」の認定事業を開始し、4年目の本年は8月末日を期限として推薦公募を行った。期日までに提出された推薦書を基に、2021年液体クロマトグラフィー科学遺産認定委員会(9月17日)で審議した結果、石井直恵氏(メルク株式会社)推薦の「超純水製造装置 Milli-Q Gradient」(所有者:メルク株式会社)を液体クロマトグラフィー科学遺産第4号候補として選出した。2021年度LC懇第6回運営委員会(9月28日)において、認定委員会委員長より上申された上記結果を審議した結果、これを承認した。

 「液体クロマトグラフィー科学遺産」とは、その認定に関する規定第2条に、「日本における液体クロマトグラフィーの発展にとって、歴史的な観点から顕著な貢献があったと認められるものを指す」と定義されている。認定第4号となった「超純水製造装置 Milli-Q Gradient」の認定理由の概要を以下に示す。

 超純水はHPLCの移動相や試料調製など、クロマトグラフィー分析や化学実験などに広く利用されているのみならず、高感度分析には不可欠の素材である。超純水の水質、特に有機物濃度は高感度分析における感度やHPLC分析の質に影響する事が知られている。超純水装置Milli-Q Gradientは、日本ミリポア株式会社(現メルク株式会社)から1996年に上市された。それ迄は、超純水の水質管理には無機イオン量を測定する比抵抗計が主に使用されており、HPLC等に使用する水質の良否の確認には、超純水製造装置では判断出来なかった為、HPLCクロマトグラムを測定し、不純物ピークの有無を確認する必要が有った。又、一部の超純水製造装置では、有機物量のモニターに全有機炭素(total organic carbon, TOC)を利用する方式もあったが、分解能はおよそ5 ppbで精度も低く、超純水のHPLCへの適用可否の判断をする為には不十分であった。1996年に上市された超純水製造装置Milli-Q Gradientは、有機物をUVランプ(紫外線)で酸化分解し、導電率測定で有機物量を計測するTOC計を搭載したものであった。このTOC計による測定値は、従来の燃焼触媒酸化方式TOC計等との値とよく一致し、感度は1 ppbで精度も高く画期的な性能であった。Milli-Q Gradientの一つ前のモデルのMilli-Q SP TOCには、簡易的にTOCをモニターする機能が付与されていたが、予測式で精度も高くない事から、表示は「0-5 ppb」「5-10 ppb」「10-15 ppb」など5 ppb刻みのアナログ方式であった。Milli-Q GradientではTOC測定を予測式から、TOC計の搭載に変更する事で水質管理機能を大きく飛躍させた。更に、Milli-Q GradientのTOC計はGxP管理下で要求されるキャリブレーションにも対応可能であり、精度管理の向上にも寄与している。この様な特性を有するMilli-Q Gradientには、HPLC試験に依らずとも、採水時に超純水の水質が確認出来る利点が有り、多くのHPLCユーザーに信頼性と利便性を提供する製品として大いに歓迎された。事実、2002年時点でのメルク株式会社の超純水製造装置のマーケットシェアは77.4%(科学機器年鑑2004年版、アールアンドディ社)であり、Milli-Q GradientがHPLC分析を中心に試験研究分野で広く使用された事を物語っている。

 Milli-Q Gradientは、1996年の販売開始以来、モデルチェンジを一度経て、2006年に後継モデルであるMilli-Q Advantageが上市される迄、約10年間に渡り使用されており、現在販売されている超純水装置の雛形と位置付けられる製品である。これらの先駆的な機能を有した純水製造装置Milli-Q Gradientは、日本も含め世界の実験科学全般の発展に多大な貢献を果たした事は歴然とした事実である。よって、その歴史的な価値は液体クロマトグラフィー科学遺産に値するものと認定された。

 なお、認定作業に当たったのは、以下の11名である(◎印:委員長):
伊藤誠治(東ソー)、榎本幹司(栗田工業)、大塚克弘(ムラタ計測器サービス)、岡橋美貴子(病態解析研究所)、橘田 規(日本食品検査)、熊谷浩樹(アジレント・テクノロジー)、小林宣章(東洋合成工業)、小林宏資(信和化工)、竹澤正明(東レリサーチセンター)、◎中村 洋(東京理科大学)、三上博久(島津総合サービス)。


液体クロマトグラフィー研究懇談会・委員長 中村 洋


LC研究懇談会会員で、LC科学遺産候補の推薦を希望される方は、下記の規程(抜粋)及びLC研究懇談会ホームページを参照の上、2021年8月末日迄に推薦書類を提出先にお送り下さい。なお、認定が決定されたLC科学遺産については、第27回LC & LC/MS テクノプラザ(2022年1月を予定)において、当事者から申請内容の概要を発表若しくは展示して戴くと同時に、LC懇の電子ジャーナル「LCとLC/MSの知恵」への投稿を行って戴きます。

第2条 「液体クロマトグラフィー科学遺産」とは、日本における液体クロマトグラフィー(LC)
  の発展にとって、歴史的な観点から顕著な貢献があったと認められるものを指す。
2 「液体クロマトグラフィー科学遺産」は、年度ごとに1件以内を認定する。
3 装置・器具類においては、その動作原理が日本初若しくはそれに準じたものである事、
  又はその性能が従来のものより格段に優れている事を要する。
4 技術・方法においては、従来のものより効率、再現性、操作性などが格段に優れている事を要する。

推薦書類
A4判スペースに横書きで記入した以下の書類(各1通)。
① 推薦理由書、② LC科学遺産候補の名称とその概要、③ LC科学遺産所有者名、④その他、適当と思われる資料(1件)を提出しても良い。
提出先
LC科学遺産認定委員会(電子メールアドレス: nakamura@jsac.or.jp