グラクソ・スミスクライン(株) 
医薬品開発部門 臨床薬理部
五十嵐春江

私は約20年間、クロマトグラフィー技術を中心とした生体試料中薬物濃度測定法の開発及び検体中の薬物濃度測定(バイオアナリシス)を行ってきました。現在は分析の実務を離れ、約2年前から薬物濃度測定の委託や申請資料の作成などを行っています。
私が分析の世界に足を踏み入れたきっかけは、会社の薬物動態研究室に配属された事です。配属当初、畜産大学出身の私は生物に多くの興味があったものの、機器分析には全く興味が持てず、なぜその仕事をしているのか?と聞かれれば「生活するためです」と答えている始末でした。また、当時は結婚後退職する女性も少なくなかったため、自分がどこまで仕事を継続できるかという疑問の中で日々を過ごしていました。
ある時、当時の上司から、「酵素関係の検討をしたらどうか?」と助言をいただき、通常業務の合間を縫って、グルクロン酸抱合体とβグルクロニダーゼに関連する検討を進める機会を得ました。反応温度や溶液のpH変化に伴う反応生成物の変化が興味深く、次第に測定することが楽しくなりました。
分析に対する私の興味が大きく変化したのは、LC-MS/MSとの出会いです。当時使用していた装置はMicromass社のQuatto IIでした。HPLCからの溶離液が脱溶媒し、イオン化した化合物がQポールを移動、コリジョンガス中で衝突解離させてプロダクトイオンを生成させるというダイナミックな変化がたった1mほどの距離で完結することに感激しました。ロータリーポンプやターボポンプ、窒素ジェネレータなどの状態を毎日確認する事により、質量分析装置の維持管理を行い、装置が愛らしい生き物に思えるようになりました。
分析業務は女性に適している仕事だと思います。私の経験では、平均的に女性は飲み込みが早く、落ち着いて根気よく作業が出来、細かい変化に気づく能力に長けている印象を持っています。女性の皆さんに積極的に分析業界に足を踏み入れて頂きたいと思います。
私の現在の心配事は、国内におけるバイオアナリシスの需要が減少している事です。外資系製薬企業は次々と日本の研究所を閉鎖し、バイオアナリシス業務は盛んに外注されるようになりました。コストパフォーマンスを重視する結果、海外への受注が後を絶ちません。国内需要が低迷を続けた場合、分析者数の減少や技術の低下が懸念されます。日本経済にとっても大きな痛手です。何とか国内需要を増やせるよう日々検討しています。
また、新薬の申請資料を作成する際にバイオアナリシスの知識は必須ですが、現場を失っている弊社の状況としては、未経験者にどのように継承すればよいのか?私の重要課題の一つです。
 2010年LC分析士初段を受験しました。「分析は総合科学である」と、私を分析の世界に導いて下さった上司の言葉を思い出させる試験内容でした。分析者の視点を失わないように、また、これまで積み重ねてきた事の力試しの意味で分析士受験を継続しています。

(2013年2月5日 記)

プロフィール
五十嵐春江、 Harue Igarashi  LC分析士二段、LC/MS分析士二段
略歴:帯広畜産大学家畜生産科学科卒、1989年スミスクライン藤沢に入社、高崎研究所にてワクチンの安定性試験に従事。ビーチャム製薬との合併を機に薬物動態研究室に配属。以降、約20年間、開発薬剤の血漿及び尿中濃度測定法の開発並びに臨床検体中の薬物濃度測定に従事。2008年(株)新日本科学に転籍。2011年4月から現職に至る。
趣味:スキー、山登り、サイクリングなど。