序
1969年、J.J.Kirklandらが開発した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、誰にも使える機器分析法として瞬く間に世界中に普及した。
現在、HPLCは実験科学の分野で最もポピュラーな分析法であり、科学的なデータに関する最大の生産者と思われる。
このように、HPLCは多くの技術者・研究者に愛用されていることから、誰がやっても巧く行くような錯覚に陥るが、実際の試料を分析する段になると以外に難しい。
HPLCには30余年に亙る歴史があり、その間に蓄積されたノウハウも少なくない。
この類のものは、教科書や参考書には殆ど出ていないのが現状であり、このポイントを外すと思った通りには行かないのである。
本書は、このような状況に鑑み、液体クロマトグラフィー研究懇談会運営委員会の総力を挙げ、初心者からベテランまで役に立つよう、Q&A方式で長年蓄えた経験とノウハウを惜しみなく公開したものである。
本研究懇談会は社団法人日本分析化学会の下部組織として1974年に設立され、以来HPLCに関する情報交換、文献紹介、講演会等を通じて、主として液体クロマトグラフオペレーターの知識・技術の向上を目的として活動してきた。
最近は、HPLC装置メーカー、カラムメーカー、試薬メーカー、ユーザー企業、大学・研究所等に所属する33名で運営委員会を構成し、年に9回の例会と恒例のLCテクノプラザ(2月)に加え、今年度からは泊まり込みの運営委員会総会(夏期)、泊まり込みの研修会(LC-DAYs、12月3日・4日)を新たに開催してHPLCの普及に努めている。
本書刊行の目的もこの線に沿うものであり、運営委員が中心となってHPLC使用者の目線からQ&Aを作成した。間違いなく読者のお役に立つ内容であると確信している。誤りや用語の不統一があるとすれば、監修者の非力のなせる業である。
ご叱声・ご指摘を賜り、次の機会に是非改訂したい。
書名については運営委員会でも随分議論し、20数種の候補が挙がったが、最終的には出版のプロフェッショナルである出版社、印刷所と相談し、思い切りくだけたものになった。
大学の講義、学会の講習会等では、『液クロ、ガスクロ等の言葉は仲間内の会話なら良いけど、答案、論文、講演等、正式な場では液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーと省略せずに使わなければ駄目だよ』と散々言ってきた手前、多少のばつの悪さはあるが、人口に膾炙するところとなった「液クロ」を素直に許容することにした。
読者諸賢、特に斯界の先達に了解を賜りたい。
運営委員会では本書の書名を省略して「液虎(えきとら)」の愛称で呼ぶことにした。
今後も「液虎」をシリーズ化し、年に一冊のペースで刊行できることを願っている。
出版企画等についてのご助言・ご提案をお寄せ戴ければ幸いである。
最後に、本書出版の機会と有益な示唆を与えて戴いた筑波出版会の花山 亘代表ならびに原稿の取りまとめにご協力下さった悠朋舎の飯田 努社長はじめ社員の方々に深謝する。
平成13年10月
液体クロマトグラフィー研究懇談会委員長
中村 洋
執筆者一覧
赤星 竹男
安中 雅彦
石川 治
石渡 昭男
井上 剛史
海野 益男
大河原 正光
岡橋 美貴子
奥山 典生
門屋 利彦
鎌田 昌史
北村 栄
沓名 裕
小池 茂行
小宮 克夫
斎藤 宗男
酒井 芳博
佐々木 久郎
鈴木 廣志
瀬田 和男
妹尾 節哉
高田 芳矩
高萩 英邦
瀧内 邦雄
塚田 勝男
冨澤 洋
長江 徳和
中谷 茂
中村 洋(監修)
二村 典行
野村 明
藤田 登美雄
古野 正浩
坊之下 雅夫
星野 忠夫
向井 敏和
村上 重美
村北 宏之
山河 芳夫
山崎 浩行
山下 順三
山田 強
渡辺 勝彦
以上
(五十音順)
液クロ虎の巻 Question項目
1章 HPLCの基礎と理論
- 理論段の考え方は?
- 半値幅で求めた理論段数Nとピーク幅で求めたNが異なる理由は?
- 保証された理論段数が得られない原因は?
- 同じカラムを連結するさい,必要最低本数の求め方は?
- t0またはホールドアップボリュームを測定するのに適当な溶質とは?
- ソルベントピークとよばれるピークが現れる原因と対策は?
- クロマトグラムピークの歪みの原因は?
- ピークテーリングの原因と対策は
- クロマトグラム上に現れる負のピークの原因と対策は?
- 内標準物質の選定方法は?
- ベースラインが移動する,また変わる理由は?
- 検出限界,定量限界と回収率の求め方は?
- 測定法の評価に必要な事項は?
- クロマトグラフィーの再現性をよくするには?
- カラムをスケールアップするとき,最大吸着量はSV ,LV のどちらに依存する?
- 微量成分の分取のさいの注意点は?
- 分取を行うときのカラム内径と分取可能な量は?
- グラジエント溶出で,試料と無関係のピークが多数現れる理由は?
- グラジエント溶出でベースラインが下がる場合の原因は?
2章 固定相と分離モード ー充填剤,カラムー
- 液体クロマトグラフィー充填剤の基材の特徴と選択法は?
- 全多孔性充填剤の場合に,溶離液は細孔内も流れている?
- 逆相系,ODS では分離の場はアルキル鎖全体,それとも?
- 微小径の無孔性充填剤の長所,短所は?
- 逆相系でC18 とC8 が多くわれる理由は?
- 炭素量が異なるとゲルの性質や試料の分離が変わる?
- エンドキャッピングとは?
- シリカゲル担体の充填剤の方が溶離機能が高いのは?
- カラムの溶媒置換や,洗浄,保管法は?
- ポリマー系カラムの洗浄は?
- カラムの温度調節の必要性は?
- アフィニティー充填剤の特徴と取扱い上の注意点は?
- 目的にあったHPLCの選択法とは?
- 天然高分子ゲルの種類と溶離目的は?
- 生体成の溶離精製で,溶離モードの使い分け,組合せのコツは?
- 溶離条件の最適化の方法は?
- カラムの寿命でしょうか?
- カラムが正常かの確認方法は?
- カラムの寿命を判定する方法は?
- カラムを枯らしたときは?
- カラムの充填圧はどのくらいに設定する?
3章 移動相(溶離液)
- 移動相には必ずHPLC用溶媒を使わないといけない?
- 添加剤入りの溶媒を用いるときの注意事項は?
- 溶離液を再現性よく調製するにはどうする?
- 溶離液の作製方法は?
- 移動相の脱気は必要?
- 汎用の水-メタノール系と水-アセトニトリル系の移動相の利点,欠点は?
- 低圧グラジエントと高圧グラジエントの特徴は?
- 移動相溶媒のつくり方,グラジエント溶離条件の設定は?
- 溶離法の特徴と応用は?
- リニアグラジエント溶出を行う場合,設定流量の精度は?
- 任意に連続的に変えられる濃度勾配溶出法とは?
4章 検出・定量・データ処理
- 新しい検出系の長所,短所(限界),開発動向は?
- 溶離に用いる水についての具体的な基準は?
- 短波長側で測定をするとき,どの程度の波長まで測定可能?
- ハードウエアが原因の検出ノイズとは?
- S/Nを2倍向上させるには?
- 間接検出法の原理は?
- RI検出器のベースラインを安定させるには?
- 所定の感度が得られません!
- 多波長検出器とは?
- 蒸発光散乱検出器の原理と特徴は?
- ポストカラム誘導体化法,プレカラム誘導体化法とは?
- 重なったクロマトピークの各成を定量するには?
- ピーク面積法とピーク高さ法のいけは?
- データの信頼性,精度などのバリデーションは?
- データの処理装置と検出器,信号処理部との接続方法は?
- データプロセッサーの定量精度はどの程度保証される?
5章 HPLC装置
- HPLC の設置場所の温度制御は?
- 装置の配管を行うさいの注意点は?
- 装置の洗浄,溶媒置換,保守は?
- パイロジェンの除去,洗浄法は?
- ピーク離をよくする装置上の工夫は?
- カラム溶離液をリサイクルする利点は,欠点は?
- ステンレス用の装置とメタルフリーの装置を比べると……?
- 流量正確さと流量精密さ,両者の違いは何?
- ミクロLC ,キャピラリーLC の有用性と市販装置の現状は,ミクロ化は可能?
- オートサンプラーによる注入量と注入精度は?
- アースの取り方は?
- プレカラムの目的は何?
6章 前処理
- 試料調製時の注意すべき点は?
- 生体試料の取り扱い上の留意点は?
- 固相抽出法の概要,選択方法は?
- 試料前処理やカラムスイッチングの自動化は?
- 血中薬物を直接注入して薬物分析が可能?
- 試料を溶かす溶媒は,また,試料はどの移動相に溶解させるのがよい?
7章 応用
- ピーク形状をシャープにするのには移動相に何を添加する?
- 特定の試料のみ分離不良!
- 溶媒だけを注入してもピークが出現!
- TFA を添加する理由,濃度,使用上の注意点は?
- 光学異性体分離用カラムの選択法は?
- 数平均分子量と重量平均分子量とは?
- 平均分子量の測定値が違ってくる!
- 校正曲線間の相関はどうなっている?
- サンプルがカラムへ吸着して,正確な分布が求められない!
- 複数のカラムを連結するときの順序は?
- ピークが二つに分かれるのは?
- ピークが時間がふたつにつれ小さく変化!
- 試料量が多いとピークに肩ができるのは?
- ベースラインが次第に上昇!
- 保持時間が一定しません!