液クロ:ホップ,ステップ,ジャンプ
--「虎の巻」から「籠の巻」、さらに「彪の巻」へ--
何事にも経験が大事である。本液体クロマトグラフィー研究懇談会が、『毎年1冊』を 合い言葉に出版する本シリーズも、これで3冊目となる。例によって、春頃に運営委員 が質問事項(Q)を出し合い、直ちにQに対する回答部分(A)を募って執筆者を確定 し、夏までにじっくりと回答を執筆して戴いた。8月25日(月)・26日(火)の両日、運 営委員による原稿査読会を日本電子(株)の山中湖保養所で行った。いつも通り、「分 離」、「検出」、「装置」、「前処理」などのグループに分かれて原稿を吟味した。前2作が、 分析化学分野の学術書売れ行きで、常にトップファイブを保っていることにも勢いを得 て、作業も快調に進み、リズムよく発行にまで漕ぎ着けることができた。
本書は「液クロ虎の巻」、「液クロ龍の巻」に続くシリーズ3作目にあたり、書名を「液 クロ彪の巻」とした。本書の書名もこれまでの2冊と同様、六韜に因んだものである。 六韜を構成するのは、文韜・武韜・竜韜・虎韜・豹韜・犬韜の6巻であるが、前作では 「竜」を「龍」に、また本書では「豹」を「彪」に置き換えて書名の特徴とした。豹は英 語の1eopardに対応し、その別名としてのpanther(特にクロヒョウ、ピューマ、アメリ カライオン)、あるいはjaguar(ジャガー、アメリカヒョウ)の意味もある。日本では、 豹の字は動物の豹を表す以外には、「君子は豹変す」(易経)に由来する「豹変」くらい しか使用例がない。元々、「君子豹変」は「君子は過ちがあれば速やかにそれを改め、鮮 やかに面目を一新すること」であり、「過ちを改めるに悸ることなかれ」と同様、前向き な姿勢を評価する意味がある。ところが、俗に「考え方や態度を急に一変させること」 に使われ、今では悪い方に変わるのを言うことが多い。そこで、本書の書名には「豹の 巻」を嫌い、「虎の巻」の3作目という意味も込め、「ヒョウ」という音だけを借りて「彪 の巻」とした。
「彪」の字は「虎+彡(セン、模様の意)」で構成され、字音は「ヒュウ」「ヒョウ」、 音読は「あや」である。その意味は、曲線が鮮やかにうねった虎の皮の模様のことであ り、また、鮮やかな縞模様のことでもある。「彪」の字についても使用例は多くなく、筆 者も林 彪(りんぴょう)(中国の軍人。文化大革命で毛沢東の後継者に指名されたが、 クーデターに失敗し、逃亡中に飛行機が墜落して死亡)と原 彪(はらひょう)(戦前 は社会大衆党に属し、戦後は社会党の代議士・1967年に政界を引退)を辛うじて思い浮 かべる程度である。
さて、書籍の刊行に際しては、書名と共に表紙の装丁には最も気を遣う・版元の花山 社長から、「液クロ龍の巻」の表紙の装丁には従来の学術書では考えられない派手さがあ り、画期的であると丸善が評している旨を伺った。豹は龍と違って実在の動物であるだ けにデザインに難しさがあったが、何とか「豹+彪」の雰囲気とインパクトを出せる表 紙にすることができた。「液虎」、「液龍」と同様、「液彪」の初お目見えは、本研究懇談 会が主催する高速液体クロマトグラフィー研修会、LC-DAYs2003(12月3日・4日、 熱海ビレツヂ)の会場となる。その後、「液虎→、「液龍→と同様、書店で平積みにされ、 多くの方々の耳目を集めることを期待する。巻末には、読者の便に配慮し関係企業の最 新の製品を資料編として掲載した。また、本シリーズの第1集である「液クロ虎の巻」、 第2集である「液クロ寵の巻」のそれぞれの目次を巻末に付けて便宜を図った。本文、 資料編とも誤りがないように細心の注意を払ったが、不都合な点があればご叱正を戴き たい。
平成15年11月
液体クロマトグラフィー研究懇談会委員長
中村 洋
執筆者一覧
赤星 竹男
井上 剛史
大河原 正光
大竹 明
春日 喜雄
岡橋 美貴子
沓名 裕
黒木 祥文
黒須 泰行
小池 茂行
酒井 芳博
坂本 美穂
佐々木 久郎
住吉 孝一
千田 俊二
高橋 豊
瀧内 邦雄
長江 徳和
中村 洋(監修)
西岡 亮太
二村 典行
古野 正浩
坊之下 雅夫
星野 忠夫
三上 博久
宮野 博
村上 重美
鎗田 孝
以上
(五十音順)
液クロ彪の巻 Question項目
1章 HPLCの基礎 一般教養
- HPLCを発明した人は?
- 液クロを短期間でマスターするためのよい方法は?
- 液クロでわからないことが出てきたとき,相談するところは?
- 液体クロマトグラフィー研究懇談会の活動内容は?
- LCテクノプラザとは?
- HPLCの勉強会の参加資格や内容は?
- 理論段数の計算法は配管と検出器セル中での広がりの度合いも含まれる?
- 理論段数の求め方は,またその計算式は?
- 理論段数の高いカラムは高性能カラム?
- カラム長とピーク幅,分離能の関係は?
- バリデーションの実施とその度は?
- 2-Dクロマトグラフィーとは?どういう効果を期待?
- 「不確かさ」とはどういうこと?
- ベースラインが安定しないときの注意点は?
- HPLCでピークが広がり,変形する場合の理由や対策は?
- 検量線を引くとき誤差を大きくしないための注意点は?
- HPLCの無人運転は問題あり,また安全対策は?
- 室温とはどういう意味?
- 緩衝液のpHを調整する際,温度の影響は?
- 内標準物質とサロゲートの違いは?
2章 逆相系分離 固定相・充填剤
- 逆相カラムの性能評価項目とその意味合いは?
- オクタデシルシリルシリカゲル充填剤の性能に統一された標準がないのは?
- 反応溶媒に水分が混入した際の問題は?
- 保持の再現性は工夫次第で得られるのでは?
- 極性基導入型逆相型カラムの長所,短所は?
- タンパク質の逆相分離で長いカラムが必要ないという理由は?
- タンパク質の逆相分離で固定相の炭素鎖長さが分離に影響しない?
- タンパク質の逆相分離で充填剤の粒子径の違いが分離に影響しない?
- 逆相分配モードで移動相の塩が保持に与える影響は?
- 逆相イオン対クロマトグラフィーにおける温度管理の重要性は?
3章 非逆相系分離 固定相・充填剤
- 高純度シリカゲルが基材として多用されるのは?
- カラム充填剤のリガンド密度が高ければ吸着能も高くなる?
- モノリスカラムとは,また期待できる性能は?
- HILICとはどんな分離モード?
- ジルコニア基材カラムとは,またその利点は?
- フルオロカーボン系シリカカラムの保持特性は?
- 有機溶媒を使用して保持を調整する方法は?
- 内面逆相カラムとはどんなもの?
- サイズ排除クロマトグラフィーで,GPCとGFCの違いは?
- 低分子リガンドをもつキラル固定相はどこのものがよい?
- 高分子リガンドをもつキラルカラムにはどんなものがある?
- SFCを利用した光学異性体分離は可能?
- カラムを恒温槽で使用する場合の注意点は?
4章 移動相(溶離液)
- HPLC用溶媒・試薬はどこの製品を選ぶ?
- グレードの試薬を急に代用する際の留意点,必要な処理は?
- 溶媒にアセトニトリルを使用するとカラムの理論段数が高くなる?
- 溶媒にアセトニトリルを使用するときの健康安全上の問題は?
- 溶媒をリサイクルする方法は?
- 緩衝液系移動相で分析する場合の注意点は?
- 溶離液に使用する緩衝液に,リン酸塩がよく使用されるのは?
- 溶離液に使用する緩衝液の最適な濃度は?
- 緩衝液を調製する際,塩の選択は?
- 実験室内の空気中成分がクロマトグラムに影響を与える?
- ノイズの原因の溶存酸素の効率的な除去方法は?
- 溶媒のアースの取り方は?
5章 検出
- 濃度依存型検出器と質量依存型検出器とは?
- UV検出器で高感度検出を行うための注意点は?
- UV検出器の検出波長を選択するときの留意点は?
- 蛍光検出器を用いる際の留意点は?
- 電気化学検出器のタイプと電極の種類・使用法は?
- ELSDで使用できる溶媒範囲は?
- ELSDの分析条件設定上の可変パラメーターとは?
- ポストカラム法を使用する際の注意点は?
6章 HPLC分析 装置・試料前処理
- HPLCの始動時に必要な点検項目とは?
- クロマトグラフ配管の内径は,カラム性能に影響を与える?
- 分離膜方式とヘリウム脱気方式の脱気装置の特徴は?
- 移動相を切り替える際にプランジャーシールは交換する?
- オートサンプラーによって注入方法に違いが,また特徴は?
- キャリーオーバーを少なくするオートサンプラーとは?
- LCをLANで結ぶには?
- オンライン固相抽出法の特長と使用法は?
- HPLC用の除タンパク操作の具体的方法は?
- ナノLCで分取は可能?
7章 LC/MS
- LC/MSのインターフェイスの構造は,種類は?
- 付加イオンとは?
- スキャンモードとSIMモードの違いは?
- ESIとAPCIの使い分けは?
- ESIにおけるイオン化条件の最適化の方法は?
- LC/MSでの最適な移動相流量は?
- ESIで100%有機溶媒移動相では感度がでないのは?
- ESIで多価イオンのできる理由は?
- LC/MSで定性分析を行う際,より多くの情報を得る方法は?
- LC/MS測定で得られたスペクトルを検索するデータベースは?
- LC/MSで定量分析を行うときのポイントは?
- LC/MSスペクトルから測定化合物の分子量を判定する方法は?
- 多価イオンから分子量を計算する方法は?
- 実試料で感度が低下するマトリックス効果とは?
- 糖類をLC/MSで測定する方法は?
- LC/MS測定で試料の前処理についての注意点は?
- LC/MSでプレカラムの誘導体化法とは?
- LC/MSに適したポストカラムの誘導体化法とは?
- 揮発性イオンペア剤の選び方,使用上の注意点は?
- LC/MSでTFAを使うと感度が落ちるのは?
- 不揮発性移動相は本当に使えない?
- MS/MSの利点と欠点は?
- LC/MS/MSの構造と分析原理とは?