最終巻『液クロ文の巻』の刊行に当たって
小泉純一郎内閣の退陣と安倍晋三内閣の発足,愛国心の涵養と美しい国作りを目指し た教育基本法改正案の成立,いじめ問題と生徒・校長の自殺.発.色々な事があった 2006年も残り僅かとなり,LC-DAYs 2006(2006年液体クロマトグラフィー研修会)の 開催(11月30日~12月1日)に合わせた「液クロ虎の巻」シリーズ刊行の時期となっ た.2001年から始まった「液クロ虎の巻」シリーズの発行も,「液クロ龍の巻」(2002 年),「液クロ彪の巻」(2003年),「液クロ犬の巻」(2004年),「液クロ武の巻」(2005年) と巻を重ね,いよいよ今回で最終巻「液クロ文の巻」(2006年)の発刊を迎えた.
ご承知のように,本シリーズの書名は中国・周の太公望の撰と称する兵法書『六韜(リ クトウ)』にある文韜・武韜・竜韜・虎韜・豹韜・犬韜の6巻60編に因んだものである. 我が国では,太公望は釣師の異称として専ら知られているが,ただの釣好きではない. 渭水の浜で釣糸を垂れて世を避けていたが,殷王朝に仕えていた文王(ブンオウ)に用 いられて才能が開花する.文王は後に儒家の模範と称された人物である.太公望(本姓 は姜,字は子牙,氏は呂,名は尚)は文王の長子であった武王の師となり,武王(周王 朝の祖)を助けて殷を滅ぼし,周代の斉(セイ)国(現在の山東省)の始祖となった.
さて,最終巻で最も気を使ったのは,「液クロ虎の巻」シリーズの“しんがり”として の務めである.物事を始めるのは易しいが,終わり方が難しい.本シリーズを起承転結 に当てはめれば,起(虎の巻),承(龍の巻,彪の巻,犬の巻),転(武の巻),結(文の 巻)となろう.動から静への流れで全体を統一し,最終巻は理知的に有終の美を飾るこ とを意図した.平家物語に「あっぱれ文武二道の達者かな」という記述があるが,液ク ロにおいても文武両道,即ち基礎理論と実践(ハード&ソフト)の何れにおいても達者 でないと一人前ではない.そこで,本書の読者に理論や文献の重要さを再認識して戴き たいという思いを込めて,最終巻の名称を「液クロ文の巻」とした次第である.表紙に は中国で発掘された甲骨文字をあしらったので,興味のある方は解読を試みられたい.
本書は「1章前処理編」,「2章分離編」,「3章検出編」,「4章LC/MS編」の4 章を骨子として構成した.前4作と同様,関連機器メーカーの最新情報を資料編として 末尾に掲載した.さらに,これまでの「液クロ虎の巻」シリーズ5巻の目次とシリーズ 全6巻の総索引を巻末に掲載して読者の便に供した.ご活用戴ければ幸いである.本書 の内容・体裁には監修者として細心の注意を払ったが,不都合がないとは断言し難い. ご指摘戴きたい.本「液クロ虎の巻」シリーズは初巻以来,我々の予想を超える多くの 読者に支えられてきた.本書「液クロ文の巻」も前巻同様,現場で役立つ実務書として 広く利用されることを期待する.太公望の兵法書に因んだ本シリーズを愛読され,釣師 ならぬ“液クロ師”になって戴ければ幸いである.日本分析化学会関東支部主催の機器 分析講習会「高速液体クロマトグラフィーの基礎と実践」の受講者には,本シリーズの 任意の巻が参加記念として前もって1冊プレゼントされている.本シリーズに盛り込ま れた情報は膨大かつ貴重であるので,読者や講習会参加者の声を反映させ,行く行くは データベース化して活用する事を考えたい.想い返せば,本シリーズは6年前に『Q& A方式の実務書を年に1冊ずつ刊行しよう!』という目標を掲げて始めたものである. 『成せばなる.何とかなる.』の掛け声で遮二無二突進し,到頭,一気呵成に目標を達成 してしまった.6年間に亘って尽力して戴いた運営委員の諸君に心より感謝したい.
最後に,本書ならびに本シリーズの出版に一貫してご協力戴いた筑波出版会の花山 亘社長,悠朋舎(製作担当)の飯田努社長,ならびに関係各位の労苦に改めて感謝の 意を表する
平成17年11月
液体クロマトグラフィー研究懇談会委員長
中村 洋
執筆者一覧
池ヶ谷 智博
石井 直恵
石倉 正之
井上 剛史
大河原 正光
大竹 明
大津 善明
門屋 利彦
神田 武利
工藤 忍
熊坂 謙一
黒木 祥文
小池 茂行
紺世 智徳
坂本 美穂
佐々木 俊哉
佐々木 久郎
澤田 豊
住吉 孝一
清 晴世
高橋 豊
瀧内 邦雄
谷川 建一
長江 徳和
中里 賢一
中村 立二
中村 洋(監修)
古野 正浩
坊之下 雅夫
増田 潤一
松崎 幸範
三上 博久
見勢牧男
宮野 博
望月 直樹
矢野 剛
吉田 達成
以上
(五十音順)
液クロ文の巻 Question項目
1章前処理編
- 分析に用いるイオン交換水,蒸留水,超純水の水質の違いと精製方法は?
- 超純水装置で紫外線ランプが装置されているのはなぜか?
- nanoLC/MS(/MS)によるタンパク質分析に用いる水は何が適しているか?
- 超純水装置からの採水には,注意しないと分析に影響が出る?
- 超純水は採取直後に使った方がよいのはなぜか?
- 分析における精度管理のうえで,純水・超純水装置の管理に必要なことは?
- HPLC用試薬,純水とLC/MS用試薬,純水が市販されているが,分析における違いは?
- クロマトグラフィー関連試薬は,メーカーを変えることで分離に影響するか?
- 移動相に使用するメタノール,アセトニトリルなどの一般的な品質保持期間は?
- ポストカラム誘導体化法などで使用する反応試薬の保存期間や注意点は?
- LC用やLC/MS用溶媒などの溶媒を扱うときの注意点は?
- 順相系分取HPLCをセットアップする場合,ヘキサンなどの高揮発性の溶媒を大量使用するときの安全面や注意点は?
- 海外でも同じブランドの試薬を容易に入手できるか?
- よく実験で用いる洗浄びんの使用には注意が必要なのはなぜか?
- 分析に用いる容器の洗浄や保管の注意点は?
- 試料保存容器は何を使えばよいのか.容器の違いによる差はあるのか?
- 生体試料中の医薬品を逆相HPLCで分析する場合の,簡単で効果的な前処理法とは?
- 複合分離モードのHPLCカラムに適した固相抽出カラムの選択の方法は?
- マイクロリットルオーダーの極微量試料を固相抽出で精製することはできるか?
- 市販の試料前処理フィルターのHPLC用と限定されたものの違いは何か?
- 夾雑物を多く含む試料の前処理に適したフィルターは?
- 食品中の糖類を分析する方法は?
- 食品中のアミノ酸分析法とは?
- 食品中の有機酸分析法とは?
- 残留農薬の一斉試験法にGC/MSとLC/MS(/MS)が用いられるが,両者の特徴は?
- 水道水中の陰イオン界面活性剤の分析で,安定した回収率を得るためのコツは?
- いざというときの,試薬の最速入手方法は?
- 食品中残留農薬のポジティブリスト制度についての説明は?
- 食品中残留農薬のポジティブリストの分析の方法は?
2章分離編
- キレート剤を移動相に添加して,金属イオンを分離・検出する方法とは?
- 同じ移動相を作成して使用しても,バックグラウンドが昨日と一致しない原因は?
- 試料を注入していないのに,インジェクターを倒しただけでピークが出るのはなぜか?
- 試料溶解溶媒と移動相溶媒の種類や組成比が異なる場合,クロマトグラム上に与える影響と発生する現象は?
- イオンクロマトグラフィーのグラジエント溶離において,サプレッサーを接続していてもゴーストピークが検出される原因と対策は?
- 逆相分配クロマトグラフィーにおける,緩衝液の種類と濃度が分離に及ぼす影響は?
- 逆相HPLC分離で,同一装置,同一カラムを使用していて,日によって保持時間および分離度が変動するのはなぜか.考えられる原因と対策は?
- H-u曲線のつくり方のできるだけ具体的方法は?
- 疎水性リガンドに親水性基やフッ素などを導入した固定相を充塡した市販逆相カラムの使い道や利点と欠点とは?
- 同一の粒子径,細孔容量,比表面積のゲルに同じ官能基が導入されている場合,どのメーカーでも同じデータがとれるのか?違いがあるとしたら,その原因は?
- ODSカラムの初期選択として,どのカラムを購入すべきか.どのような機能性に着目して選択すればよいか?
- ミクロ,セミミクロ流量域で使用できるモノリス型シリカカラムはあるのか?
- カラムの交換時期についての指針は?
- A社の理論段数10000段の逆相カラムに代えて,B社の同サイズの理論段数15000段カラムを使用したが,思ったほど分離向上が見られない.これはなぜか?
- イオン交換カラムでは,シリカゲル基材およびポリマー基材では分離や性質にどのような違いがあるのか?
- カラムの保存方法,有効期間についての注意点は?
- 効率的に分析法を開発するための手順とは?
- 分析時間を短くするとき,グラジエントカーブはどのように変更すればよいのか?
- 逆相HPLC条件の検討をしているが,分離が不十分なので,もう少し改良するには何から始めればよいのか?
- 分取超臨界流体クロマトグラフィーを利用した分取精製をする際の注意点は?
- 高圧切換えバルブを用いたカラムスイッチング法の方法と流路例は?
- 新規に購入した逆相カラムを使用したところ,今までとは分離パターンが異なってしまった.製造メーカーから,以前使用していたものと同一バッチのゲルを充塡した新品カラムを提供されたが,そのカラムでも以前の分離パターンは再現できない.なぜこのようなことが起こるのか?
- 脂肪酸の分離に銀を用いた配位子交換クロマトグラフィーが有効と聞いたが,原理は?
- 有機酸の分離には,どのようなモードを選べばよいのか?
- 分取精製に有効なカラムはどう選べばよいのか?
- タンパク質キラル固定相とペプチドキラル固定相は,ともにキラル分離に有効だが,その違いは何なのか?
- 高速分析におけるカラムの選び方や注意点は?
- 逆相系における高温条件下での分析について,その効果とは?
- カラムの温度を高温で使用する場合,通常のLCシステムで使用しても問題はないか?
- 高速分析をするときのHPLC装置での注意点は?
- 高速分離のために小さい充塡剤を使用する場合,どの程度まで小さい充塡剤が市販されているのか?
- 高速分析ではピークが高速に出現すると思うが,検出器の応答速度はどの程度必要か?
- 分析の高速化を行う場合,実際にはカラム洗浄と再平衡化に時間がかかり,思ったほど高速化できない.より高速化するには,どうすればよいか?
- ODSカラムにおいて移動相に低pH溶媒を使用すると,理論上トリメチルシリル基やODS基が徐々にはずれるといわれるが,UVや(ESI-MS)で検出する限り,これらの脱離基は検出されず見逃しているように思えるが,実際はどうなのか?
- TLC(薄層クロマトグラフィー)とHPLC(高速液体クロマトグラフィー)の分離は,条件が同じなら同じと考えてよいのか?
- 海外でも,同じブランドのカラムを容易に入手できるのか?
- 高速分析のときに流速を上げると思うが,カラムの耐圧はどの程度か?
3章検出編
- HPLCの分析における検量線用溶液調製方法,検量線の作成方法は?
- HPLCでは定性分析の経験しかないが,定量分析を行う際の注意点は?
- ポストカラム誘導体化法の種類,内容とは?
- プレカラム誘導体化法では,どのような方法が有効なのか?
- 初心者で,HPLCの消耗品の注文やメンテナンスの相談などの場合に,部品の名称がわからない.フェラル,押しねじ,ユニオン,プランジャーシールとは何か?
- プランジャーやバルブの洗浄・交換のポイントは?
- HPLCの配管(チューブの種類や長さなど)のときに,気をつけることは?
- カラムの連結では違う種類のカラムをつなぐ方法でもよいのか,その適用例は?
- スタティックミキサーとは何なのか?どの容量を選べばよいのか?
- HPLCの移動相の流量をはかる便利な器具は?
- ELSDを初めて使う場合,使用にあたって,ELSD特有の注意点は?
- PDA検出器で確認試験と定量試験をかねる場合の正しい運用方法は?
- HPLC装置が高く積み上がっている場合の地震対策は?
4章LC/MS編
- LC/MSインターフェースの種類,選択のコツは?
- モノアイソトピック質量とは何か?
- LC/MSとGC/MSで得られるフラグメンテーションが異なる理由は?
- LC/MS(/MS)で得られる分子関連イオン以外のフラグメントイオンの帰属を解析する際の注意点は?
- LC/MSにおけるデータのサンプリング速度とスペクトルやクロマトグラムとの関係はどうなっているのか?
- 未知試料をLC/MSで分析する際に推奨されるMS条件設定の手順は?
- 未知試料をLC/MSで分析する際に推奨されるLC条件設定の手順は?
- LC/MS/MS,MRMでの多成分同時微量分析で,特定の成分のみがばらつくが,その原因にはどんなことが考えられるのか?実試料だけでなく標準試料の分析でも観察され,UV検出器では観察されない場合の解決方法は?
- LC/MSで高速分析を行う場合の注意点は?
- LC/MSでバックグラウンドイオンが観測される原因と減少させる方法は?
- 血液試料をLC/MSしたときのバックグラウンドを下げる方法は?
- LC/MSで人体に有害な物質を分析する場合,排気が気になるが,排気の仕組みは?
- HPLC,LC/MSに関する初心者向けの市販の参考書は?
- LC/MSを用いた分析において,検出されやすい物質の構造は?
- LC/MS分析における試料濃度の注意点は?
資料編
- 日本ミリポア株式会社
- 関東化学株式会社
- メルク株式会社
- ジーエルサイエンス株式会社
- 東京化成工業株式会社
- オルガノ株式会社
- 株式会社日立ハイテクノロジーズ
- 財団法人化学物質評価研究機構
- 株式会社島津製作所
- シグマアルドリッチジャパン株式会社
- 日本分光株式会社
- 和光純薬株式会社
- 横河アナリティカルシステムズ株式会社